オフィスイメージ

従業員の「働き方」にも求められるカスタマイゼーション

オフィスイメージ1988年に正式に導入された「フレックスタイム制度」は、企業側が設定した「コアタイム」の時間帯に会社にいさえすれば、始業時間終業時間を任意に決めることができる制度ですね。

フレックスタイムは、通勤ラッシュの回避身体的負担の軽減生産性向上による残業時間の削減といった効果が期待されていました。しかし、フレックスタイムを導入した企業は平成21年度当時で全事業所の6%程度であり、近年は微減傾向にあるようです。(厚生労働省調べ)

実際、フレックスタイム制度は様々な形での見直しが行われていますね。例えば、リコーでは、「エフェクティブ・ワーキングタイム制度」という新制度を導入。従来のコアタイムは午前10時15分から午後2時45分まででしたが、新制度では午前9時~午後3時30分へと拡大されており、通常の始業・終業時間とほとんど変わらないんじゃないでしょうか。

‘エフェクィブ’(効果的)という表現からは、従来のフレックスタイムはあまり「効果的ではなかった」という認識がうかがえます。

また、富士ゼロックスでも、従来のフレックスタイム制度を刷新した「協働タイム制度」を導入しています。同制度では、コアタイムを午前10時から1時間早めて午前9時からに変更しています。

リコーにしろ、富士ゼロックスにしろ、フレックス制度の見直しは、部門の枠を超えた会社全体での情報共有をスムーズにすることが目的です。

イントラネットをはじめ、非同期のコミュニケーションを可能にするITツールはとっくに普及していますが、フェイス・トゥ・フェイスでの同期型コミュニケーションの時間が取れないと十分な情報共有が果たせないということでしょうか。まあ、言葉では伝えにくい、いわゆる「暗黙知」は、時間と場所を共有することが重要です。

今の時代、あらゆる顧客接点(タッチポイント)における顧客対応に整合性、一貫性を持たせ、会社全体として優れたカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を提供することが企業生き残りの鍵となっていますから、個人以上に、チーム、組織としての情報共有、生産性向上を図るため、フレックスタイムの見直しもやむをえないところでしょう。

とはいえ、従業員エンゲージメント向上の観点からは、「ワークライフバランス」は依然として重要な課題であり、育児や介護などプライベートとの両立を図るための「時短勤務」や「在宅勤務制度」などにまで見直しが入るようになると、以前の滅私奉公的な時代に逆戻りしかねないようにも思います。

したがって、組織としての規律・秩序、そして生産性を高めるための様々な制度を維持しつつも、企業として目指すべきは、制度の一律適用ではなく、従業員によって異なる状況に応じた、より柔軟な適用、すなわち「カスタマイゼーション」の発想ではないでしょうか。

「カスタマイゼーション」といえば一般に、顧客の嗜好についての理解や過去の購買履歴にもとづき、顧客それぞれに応じた最適な提案や対応を行うことですが、従業員に対する「カスタマイゼーション」も、これからはますます必要になってきます。従業員のより多様な価値観、人生観、生き方との整合を図ることが、従業員のやる気を高め、ひいては生産性向上にもつながると期待できるからです。

カーネギー・メロン大学のデニス・ルソー教授の研究によれば、一部の企業において、特定の従業員の雇用条件を「特別扱い」することが許容されており、それが、企業側に大きなメリットをもたらしているケースがあるようです。具体的には、たとえば深夜にしか働かないけれど、極めて優秀なプログラマーに対して、特別に通常勤務時間外での在宅勤務を認める、といったケースです。

ルソー教授は、これを「I-DEAL」と表現しています。ここで、‘I’には、(1)周囲と違う特異な扱い(Idiosyncratic)(2)特別の許容が企業や他の従業員にプラスになる理想的状況(ideals)の二重の意味があります。

I-DEAL的な扱いを受けている従業員に対しては、他の従業員から「なんであいつだけが・・・」といった不平につながる可能性もあり、運用が難しいところではありますが、従業員幸福の実現のためにも、前述したように、雇用・労働条件に対する一律の制度運用をやめ、より柔軟な個別適用、すなわち「カスタマイゼーション」に企業は舵をきるべきだと私は考えています。

*リコーと富士ゼロックスについては、日経産業新聞(2014/11/18)の記事を参考にしました。

*ルソー教授の「I-DEAL」については、日本経済新聞のコラム「やさしい こころと経済学」(2014/11/18)から引用しています。

 

執筆:松尾順 Certified Net Promoter Expert

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